一粒一粒鋏でカットしながら房形を作っていくこの作業は、現在3〜4グラムの小さな粒が20グラム前後の大きさに仕上がることを想定して、房の中に粒を閉じ込めない、粒同士が潰しあうようなぎゅう詰めの房にしない、の二点を基本とする大変な作業です。
言葉では理解できても、いざ鋏を持ってブドウを前にすると、初めての人なら固まってしまうのが普通です。新人のお手伝いさんに私が何時も言うのは、どんなに時間がかかってもいいから一粒一粒何故その粒を除けるのか考えながら鋏を入れてください、決して他のベテランの人達と同じだけやれるとは考えないように、ということです。
職人の領域はそれほど簡単ではありません。基本がどうにか頭に入るのに最低3年は要します。素人の新人さんを職人に育て上げるには、私のほうにも当人以上の辛抱が必要となります。
私はブドウ作りのお手伝いさん達に、仕事のスピードを上げろと要求したことは一度もないです。スピードを重視して内容がお粗末になるのを極端に嫌うためです。仕事は量よりは常に質を要求します。質の高い仕事にウエイトを置きながら、年々多少でも早くなってくれればとは願っています。
これまで私が見てきたお手伝いさん達で、仕事をしながらブドウの成長過程を楽しめる人は、初め多少もたもたしても必ず伸びます。反対に最初からてきぱき仕事が出来ても、あくまでも仕事でしかない人は、尻すぼみで伸びません。
物作り、職人の世界は、自分が楽しむことが出来るかどうかが基本的な所で、それが無いと無理ではないかと思います。